1952年に京都大学農学部農林工学科卒業後、建設省に入省。利根川水系砂防工事事務所調査課長、富士川砂防工事事務所工務課長、神通川水系砂防工事事務所所長、日光砂防工事事務所長を歴任後、科学技術庁国立防災科学技術センター地表変動防災研究室長を経て、流動研究官。その後、日本サーベイ株式会社専務取締役、日本工営株式会社非常勤顧問を経て、1990年砂防エンジニアリング株式会社を設立。代表取締役社長、代表取締役会長、取締役会長、最高顧問、名誉顧問を歴任。
2022年没。
ここに砂防マンのあるべき姿を的確に表した文章があります。
獣になって山に分け入る。魚になって沢を上る。
モグラになって地質の肌に触れる。鳥になって空から眺める。
沢ごと谷ごとに驚くほどの違いを見せる
『川のカオ』『川のカタチ』を素手で丸ごとつかむのだ。
私は、砂防マンはまず現場を歩く、見る、親しくなる、ことが大事だと思っています。
故安武道夫氏とは神通川水系砂防工事事務所で作成した「ビデオ・テキストで学ぶ神通川上流域の微地形」でご一緒しました。彼のこの言葉は、砂防マンのあるべき姿をわかりやすい表現で的確に示したものだと思います。
私が「微地形」と「砂防」との関わりに気づいてから50余年になります。勤務先はさまざまに変わりましたが、「砂防は歩くにあり」とばかりに現地を歩く一方、空中写真を判読するうちに、砂防計画、山地防災はまさに砂防微地形から出発すべきであるという考え方に傾斜していったのです。長年現場を歩き、山や川の声を聞き、空中写真を見ていく中で、やっと大規模な崩壊について、崩壊の危険性の高い場所を多少とも拾い出せるところまでたどり着いてきました。
そして、土砂災害の発生は、その場の自然属性と社会・経済・文化属性を反映していると考えています。拙著「微地形砂防の実際:P283、P284の表(砂防に関わる専門領域)」を参照いただければお分かりなるかと思いますが、その要素は極めて豊富、複雑で、多岐にわたり、これからますます広く深くなると思います。
砂防マンには、これら専門領域の知識を判断の基礎として、どういった荒廃要素が地表地形にどのように現われ、写真上にどのように表現されているか解析する能力が必要です。この能力は、ほかの学問領域と同様、一朝一夕に得られるものではなく、判読のための勉強や技術向上は欠かせません。
このような専門知識と高度な解析力とともに、自分の足で山を歩き、沢を見て、それらの声を聞き、判読の世界のすそ野を広げれば、得られる情報も多くなります。やがてより正確で有効な微地形分類図や、土砂災害ハザードマップなどに反映され、住民の皆様の安全で快適な環境づくりをお手伝いできることでしょう。
大石元所長が微地形砂防について語られるとき、過去の体験談を長々と話されることがあります。近視眼的ですぐに結論を欲する私から見ると違和感を覚えておりましたが、実際に業務を行っていると、経験に根差した大石元所長の技術力の奥深さと、知識偏重の自分の技術力の差を痛感させられることがしばしばあります。私も現場経験を重ねて技術力を深めるよう努力しておりますが、まだまだはるかに及ばない状況です。
(一社)全国地質調査業協会連合会が、応用地形判読士を創設しました。優れた地形判読技術を有し、地形リスクを判断できる応用能力を修得した技術者を認定し、その利活用で有用性を広め、当該技術の普及と技術者の育成を図ることが目的です。私は、入社以来、微地形判読やそれに基づく砂防計画立案業務の経験を経て、地形に関してはある程度経験をつんだつもりではいましたが、その経験を普遍的な知識とするためにも、体系的な理解を確固とするためにも、受験をし、昨年度合格いたしました。二次試験の問題は、モノクロの空中写真と二万五千分の一地形図で地形分類図を作成し、さらに設問に記述式で答えるものでした。教科書的知識だけでは解くことができず、また地域全体の地形の成り立ちを洞察しないと解けない問題で、応用能力が問われる手ごわい問題でしたが、何とか解くことができました。日頃より大石元所長から、広い視野で地形を見ることの大切さを教え込んで頂いたお蔭であると考えております。